転倒の話 その②  〜事例から学ぶ転倒が起きる場所〜

転倒

やっぱりこの娘はおもろいなぁ。と坪井咲夜は桜井玲奈を見てニヤニヤと笑みを浮かべる。なんですの?と眉を上げる桜井になーんにも!と答えた。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そんなら山吹さんの転倒した経験を早速聞きたいんやけどー

山吹 薫
山吹 薫

何度も言うが僕ではない。患者様の話だ!

白波 百合
白波 百合

まぁまぁ。でもやっぱり臨床では転倒骨折は多いっすからね!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

そうですわ。それに悲しい事ですけど入院中でも起きてしまう事でもありますわ。

ふん。と腕を組む山吹薫をまぁまぁと白波は嗜める。なんやめっちゃ落ち着いてしもたなーと坪井はちょっと残念に思う。そんでこの玲奈がえぇ刺激になるかもしれへんと邪念を浮かべては見たけど、どうやらそうではないらしい。

山吹 薫
山吹 薫

転倒場所はもちろん屋外もあるが、臨床で経験する多くは屋内の転倒だと僕は思う。そしてデータ上は自宅の庭が多いな。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。確かに地面が整っていなかったり、柔らかかったりするとそれだけ必要になるバランスの力も高くなるっす!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それに庭に降りる段差や、庭に洗濯物を干す時に後ろにこうドテーって倒れたりするリスクもあるもんな。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

それにしゃがんだり、立ち上がったり、物を持って何かをするという事もありますわ。それはただいつも通り歩くとは重心の移動も激しくなりますから、それだけ筋力や柔軟な動的なバランスの力も必要ですの。

しっかしよう勉強してんなー。と坪井は桜井を見る。自分も勉強はしてんねんけど、それでもこうも真面目に頑には成れない。ある意味百合とよー似てんなとも思う。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。屋内と屋外では要求されるバランスの力は段違いだ。それに次に多いのは居間やリビング、茶の間といった生活の空間だ。日々なんらかの活動や屋内で移動する中心ともなりやすいから、それだけ転倒する頻度も高まる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

むしろ屋外より高齢の患者様はこっちの方が多い気もするなぁ。和室の生活も多いやろ?コタツ布団に引っかかる事もあるし、カーペットの端に足を取られるって事もあるもんなぁ。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

後はそうですわね。リビングをただ通り過ぎるって事もありますけど、例えば食事やお茶を運ぶとか何らかの活動に付随している事も多いですから、その際には色んな事に注意を向けねばなりませんわ。

白波 百合
白波 百合

それに畳は案外滑りやすいっすからね。靴下を履いていたり、人によっては装具をつけている事もあるっすから、それで滑る事もあるっす!後は居間に入る時に小さな襖につまづく事もあるっすね。

ですわ!と桜井は答える。言葉は良いが未だに目を伏せている。この娘もわっかりやすいなぁと坪井はため息を吐いた。だけどもやっぱりそれはそういった感情とは違い、結局のところ憧れなんやなぁと思う。

山吹 薫
山吹 薫

次には玄関もまた多い。もちろん高い上がり框がある事も問題だが、目に見える段差よりも、さっき白波君が話した目に見えない段差の方が問題だ。普段気を置かない段差ほど躓き易い。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

そうですわね。それにそこでは靴の着脱が必要ですの。靴を履く時には逆に高い上がり框があれば腰掛けて可能ですが、今度は靴を脱いで上がる時に足が上がり切らなかったなんて事もありますわ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

家の出入りは必須やからなぁ。そんで玄関に手すりがある自宅も多いやろけど、そんでその先には廊下が続くやろ?手すりを使って何とか上がり切っても、その先で体がついてこなくて転倒って事もあったなぁ。

白波 百合
白波 百合

確かに一つ一つの場面への対応も必要っすけど、生活全体を考えると動作の連続っすもんね。家から入って、廊下を歩いてって、一つの動作だけでは無く、その人の生活を考えないとダメっすね。

好意と憧れは似ているようで違うもんなぁ。と坪井は思う。まぁそれ故になんのトラブルも起きひんからええもんやけど、やっぱりなぁとも思った。

山吹 薫
山吹 薫

そして転倒の多い場所は階段、寝室、廊下、浴室と続く。しかし転倒の頻度が少ないからといって起きない訳ではない。特に階段や浴室で転倒した場合には重症となる事が多いから対策は必要だ。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。階段の縁は滑り易いっすから、滑り落ちるのが2-3段だけだったら良いっすけど、高い所からって考えると恐ろしいっす。昔の家の階段ほど急っすから。それに二階のベランダに洗濯を干さなきゃいけない人もいるっすから対策が必要っす!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

浴室も濡れたタイルや浴槽に入る時に滑って転倒も見る事ですし、だけどもそういう方は浴槽に入るだけの力が無い方もいらっしゃいますから、難しい所ですわね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ほんで入浴する前に服を脱いだりせなあかんやろ?立ったままやろうとして、特にズボンなんかの着脱は難しいもんなぁ。座ってやればええ事やけど、いきなり習慣を変える事も難しいから注意せなあかん所や。

と答えつつ、やっぱり恋愛漫画的展開もまた見てみたいとは思うが、やはりそうには成りそうに無いなと坪井はため息を吐く。もしかして夢見る乙女なんは自分か!?とはっと口を開ける。

山吹 薫
山吹 薫

どうした?そんな顔をして。とにかく、普段生活する範囲でも転倒のリスクがある場所は多い。普段は意識していなくても長い目で見ると、加齢や疾患による身体機能の変化、認知面もあるが、それらが影響し転倒のリスクは高まる。

白波 百合
白波 百合

案外周りから見ていて危ないと感じていても、やっぱり自分では気がつかないもんっすからねぇ。周りの人がダメって言ってもやっぱりやっちゃうっすもん。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

それはありますわね。でも心情的にやっぱり認めたくないって気持ちもあると思うのですの。しっかりとその人の心に寄り添わないと、少し関わっただけの人にいきなり生活を変えなさい!なんて言われても認められませんわ!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そうやなぁ。でもやっぱり伝えなあかん事は伝えなあかんな。若い時に転けるという事と、年齢を重ねてから転ける事は大きく意味が違うんやしな。

そうだ。と山吹は答える。全くこの不器用鉄面皮は何を考えているんやろかね。と坪井はそう考える。だけども昔に感じたような冷たいものでもないんかな?そうとも思った。

白波百合のノート 91

・転倒は、屋外よりも庭を含める屋内の転倒が多い。居間やリビングが多いが、階段や浴室で転倒すると大事故に繋がる事もある。

・一つの動作が出来たとしても、動作は連続するものだからその人の生活を単位として考える。

・さっきから先輩が首を傾げているけど、どうしたんすかね?

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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理学療法士。作家。つむぎ書房より『看取りのセラピスト』を出版。理学療法士としては、回復期から亜急性期を経て、ICUを中心に働き内部障害を中心に患者へと関わる。ご連絡はこちらからも→Xアカウント(旧Twitter)@tanakan56954581 他にも多くの小説ストックあります。

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